おとめ倶楽部

キラキラオトイメロイメモリ

No.1

手折れ白百合

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原作:刀剣乱舞
種別:夢小説
文字数:4577文字
小竜景光×女審神者

 ある本丸のご令嬢が、刀剣男士に恋をした。
 
 ご令嬢の血筋はサラブレッド。両親は審神者、祖父母も審神者の審神者一家。
 自分もいずれはどこかの男審神者と結婚するものだろうと思っておりました。
 審神者として生き審神者として死ぬ。長い戦に勝利をもたらすことが一家に与えられた命題でした。

 それでも、落ちてしまったのです。初めての恋に。
 きっかけは眠り姫への口づけ。さてこの恋、どう転ぶか。


「主ー。手ぇ止まってるよ」
 ぼーっとしていたご令嬢に声をかけたのは、彼女の初期刀で近侍の加州清光。

「あら、あらいけない。(わたくし)としたことが、ふふ」
 ご令嬢は恥ずかしそうに口元に手を添え笑うと執務を再開します。

「さっきからちょくちょくそうなってるけど、調子悪い?大丈夫?」
 加州清光は彼女を刀剣男士として忠実に慕っておりますが、それでいて年頃の少女に対する気安さを持っているので仲は大変良好です。

「いいえ、そういうんじゃありませんわ」
 幸せそうにひとりふふふと笑っていますが、様子は十分平常通りでありません。

「……主、もしかして恋でもしてるの?」
 この加州清光は主が見合いで結婚を決めるのを可哀想に思っていたので、浮いた話が舞い込まないか今か今かと待ち構えていました。

 加州清光の言葉を聞いて、執務室にいた二(ふり)目の男士も口を開きます。
「なになに!? 主さん、好きな人いるの??」
 ご令嬢の初鍛刀、乱藤四郎です。今執務をしているのは加州清光、乱藤四郎といずれも執務が特別得意な男士ではございませんが、ご令嬢は彼らに人一倍心を預けており、重用しているのです。

「まぁまぁ、うふふ」ご令嬢は恥ずかしそうに手を止めますが、加州清光に「主。手は止めない」と目敏く注意されました。特段今佳境というわけでもないのですが、奔放さのあるご令嬢をしっかり真面目に育てるのが小さい頃からの彼の務めでした。
 
 静かな筆運びのみ聞こえる執務室。手を動かすようにいったものの二口ともご令嬢の返答が気になって仕方がありません。
「あのね」ご令嬢の呟きに二口は偵察能力をマックスにした最高速度で反応しました。

「私……好きな(ひと)ができたの」
「え?刀?」

 ご令嬢の告白に二口は動揺。彼女は確かに「刀」と書いて「ひと」と読みました。刀剣男士です。
 よりにもよって刀剣男士!代々審神者同士の婚姻で力をつけてきた一家の一人娘が好きになったのは、刀剣男士!
 どこの本丸の、いや本丸所属なのか、一体どこの誰がご令嬢を誑し込んだのか。二口が執務を放りだして詰め寄ります。

「二振りとも落ち着いて。聞いてくださる?」
 ここに集まったのは執務が得意な者々ではなく、花にも負けない乙女心を持ち合わせた三名。恋バナは何よりも優先すべきことでした。

「この前の夕方……。縁側で昼寝してしまっていたの。それでその方が私を……抱きかかえて運んでくださっていたんです……」
「きゃー!! それって姫抱き!? 素敵ー!!」
「うちの本丸の男士なんだ!? 待って誰々そんなことするの……!?」

 頬を薔薇色に染めて話すご令嬢、夢のようなシチュエーションに大興奮の乱藤四郎に、特定班の加州清光。
 部屋の熱気は高まっていきます。
 
「お部屋に着いて……私、眠ったままのふりをしていたんです。そしたら、私の額に……」
 ご令嬢は照れてものも言えない風です。続きを待ち構える二口に、小声で続けました。

「口づけを、なさったの……」

「きゃー!!!!」
 まさかの展開に二口ともびっくりやらドキドキやら。ここに鶴丸国永がいたら大層満足したでしょう。

「それで好きになっちゃったんだ!? わーロマンチック!」と乱藤四郎。
 加州清光としては初心なご令嬢にそんなことをしたのが誰か気になって仕方がありません。

 と、そこで十五時の鐘が鳴りました。
 同時に差し入れを持った刀剣男士が執務室を訪れてきます。
 本日やってきたのは小竜景光。長船派の風来坊です。

「お疲れ様。おや、三人ともお話し中だったかな、失礼」
 彼は執務室のティーテーブルをセッティングします。差し入れの大福とお茶を置けば「しっかり息抜きするんだよ」と言ってさっと去りました。

「休憩しよっか」加州清光がご令嬢の方を振り向きます。「あ、主……!?」

 ご令嬢は耳と手まで真っ赤にして戸口を眺めていました。
 乱藤四郎もそれに気づき、ご令嬢と戸口の方を交互に見やります。

「主が好きになったのって……」加州清光は驚きを隠さずに聞きます。
「小竜なの──!?」


 ご令嬢、加州清光、乱藤四郎はティーテーブルを囲んで茶と茶請けを召し上がります。

「小竜さんかー! ボクいいと思うなー♡ とってもお似合いだと思う♡」
「長船だったか~。主、結構夢見がちだもんね」
「まぁ、まぁ二振りとも。好き勝手言いなさらないで」

 みな大福よりも美味しいご令嬢の恋バナにすっかり夢中。
「あれ以来、自然と小竜さんを目で追ってしまうの……。何をなさってもきらきら見えてしまって、私……」
 小さな恋煩いに悩むご令嬢は、年相応の可愛らしさがありました。
 
 芽生えたばかりのご令嬢の気持ちの行方が気になる二口は、「告白とかってするの……?」と緊張とともに尋ねます。
「告白だなんて……。私、これ以上の関係は望みませんわ。主従としてこれからも仕えてくれたら充分よ」

 あくまで主従という立場を忘れないご令嬢。控えめな様子に二口はモダモダします。
「主の初恋、何とかしてあげたいけどこればっかりはな~~」
 加州清光が茶を啜りつつ呟きます。

「いいのよ。私にだって、いつ縁談が来るかわかりませんもの」
 やや寂し気に話す主を見て二口も切ない気持ちになります。
 厳しいお家の事情に口を挟むことはできませんが、主の幸せを祈っているのです。


 その晩。
 ご令嬢は夕餉の席の後で小竜景光を探していました。差し入れのお礼を言えればと思ったのです。
 人が多い本丸の食堂の中でも彼を見つけるのは、恋する乙女たるご令嬢にとって難しいことではありませんでした。

「小竜さん」

 ご令嬢の鈴のような声が響きます。それは風に乗って小竜景光の耳にも届きました。
「なんだい主?」
 ご令嬢の方を振り返った小竜景光は、主の姿を認めると屈んで目線を合わせます。ご令嬢の心臓は早鐘を打ちました。

「ん? 主、顔が赤いな。熱でもあるのかい?」
 心配そうに覗き込まれると慌てて「いいえ違うの、お礼を言いたくて」と訂正しました。「差し入れ、ありがとうございました。美味しかったわ」

「お礼を言われることじゃあないさ。主、立ち話もなんだし話しがてら部屋まで送っていくよ」
 小竜景光は長船らしくご令嬢に手を差し出してエスコートしました。ご令嬢としてはこんなに胸の高鳴るエスコートを知りません。
 この本丸の刀剣男士たちは、蝶よ花よと育てられたご令嬢をみな大切に扱っていたため、今彼女たちの周りにいた刀剣男士たちも特にこのエスコートを気にしません。動転しているのはご令嬢だけでした。

 部屋に着くまでの道のりは緊張で長く感じて、何を話していたかご令嬢はほとんど記憶にありませんでした。
 真っ赤な薔薇のように赤く染まった顔を流石に小竜景光も怪しく思います。部屋に着いてから彼はご令嬢に尋ねました。

「主、キミもしかしてこの前起きていたのかい?」
「!」

 素直なご令嬢は簡単に顔に出てしまいました。小竜景光も想定外だったようでこれはこれは……と己がした罪を推し量りはじめました。
 
「白百合のように清廉なキミに不用意に手を出してしまってすまないと思っている。あんなところで無防備に寝てはいけないと灸を据えたい気持ちがあって、魔が差したのさ」
 眉を下げて謝る小竜景光。
 ご令嬢としては謝ってほしかったわけではないので、どうすべきか反応に困ります。わかってはいたことですが、彼は自分に気があるというわけではないのだと感じました。

「主は大切なご令嬢なんだから、……いずれ誰かの元へ嫁ぐ身だというのに、悪いことをしたと思っているよ」
 ああ、ご令嬢は悲しみました。
 彼女は距離を取られたように感じたのです。そういう距離には慣れっこでしたが、他でもない好いた人に言われるのは辛いことでしょう。

「……どうか、そんなこと言わないで」
 涙を堪えながらご令嬢は口を開きます。
 それは望みでした。ある意味では、隔てられた一線を越えてきてほしいという。
 ご令嬢の両手が小竜景光の片手のひらを包みました。言葉は慎ましやかでありながら、彼女にしては大胆な行動です。

「主……」小竜景光としては、折角取った距離を詰めるご令嬢の気持ちがわからず溜息をつきます。
 このまま流れに身を任せたら、自分は彼女をどうするかわからないというのに。

「私を白百合だと言うのならば、どうか離れていかないで。誰かに手折られるまで側で私に水を頂戴」
 精一杯勇気を出して、ご令嬢の感覚ならばこれは告白です。
 言わないつもりだったことを口走ってしまった。恋とは上手くいかないものです。
 
「キミは残酷なことを言う」
 小竜景光は瞳を揺らしながら唱えます。ご令嬢の髪を一房つかみ撫でました。
「俺がどんなにキミに尽くしても、キミは誰かに手折れてしまうんだよ」

 ご令嬢としては気が気ではありませんでした。
 この刀剣男士は、私に控えめに触れながらまるで私が貰われるのを哀しむようなことを言う。
 
 お互いこれ以上どう踏み込めばいいのでしょう?
 どれくらい経ったのか、ゆっくりな時間の中で小竜景光が呟きます。
「……いいのかい?」

 彼の立場上、それは禁忌にも近い問いかけでした。
 問いかけるのも答えるのも罪深く思われます。
 ですがこればかりは、ご令嬢は答えなければこれより先が有り得ないのです。
 
 ご令嬢の震える唇は意味を為しませんでした。
 そのまっすぐな瞳を閉じ瞼を晒します。そこに、最上の望みをかけました。
 彼は目を見開きますが、すぐに彼女の両手を離し、代わりに閉じた瞼から零れた雫を拭います。
 唾を飲みこんだ音がいやに響きました。
 
 影が動き、二人の唇がそっと重なりました。
 
「ああ……」彼の唇は離れても、心は最上のそれに浸っておりました。
 彼女の蕾のような唇は、はくはくと咲きました。

 きっかけは眠り姫の口づけ。
 そして二人の心も、口づけによって結ばれたのでした。


「えっ!? もうそんなことになったわけ!?」
 執務室に響くのは加州清光の声です。
 なんだなんだと駆け付けた乱藤四郎も、訳を聞くと同様に叫びを上げます。

 聞けば、昨日探ったばかりのご令嬢の恋がもう実り、しかも近々家族へ挨拶に行くと言うのです。

 恥ずかしくて事の顛末すべてを話すことはできなかったご令嬢。
 詳細の知りたい乱藤四郎と前途をしみじみ祝福する加州清光でもう執務どころではなかったところに、噂の王子様がやってきました。

「主。加州に乱も、調子はどうかな」

 そう言いながらご令嬢に会いに来たのは一目瞭然です。
 浮かれてるな……と加州清光は思いますが、「まぁ小竜さん」とご令嬢が幸せそうなものですから何も言いません。

「少し主を借りていくよ」
 
 小竜景光がご令嬢の手を取り立たせ、腰に手を添え歩き始めます。
 誰より彼女に近づける、彼だけの特別なエスコートです。まだ見慣れないですがいずれこれが日常になっていくのでしょう。
 
 小竜景光は、清廉と認めていた白百合を手折りました。
 それでも、それによって。隣で歩く白百合こそが彼の居場所になったのです。


あとがき
こちらが夢小説の処女作です❣❣
想定より文字数が多くなっちゃったし時間もかかっちゃった。
途中でポエム合戦始まってアツかった。
自分の書く文章って基本苦手なのですが、あえてクセのある書き方にして回避したつもりです。
小竜くんの心情について語り切れなかったところが心残り。
客観的に見て面白いかわからないけど、書いてて楽しかったので★★★★★

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