おとめ倶楽部

キラキラオトイメロイメモリ

No.15

Ⅰ 初恋の予感 - あなたを伝う恋風

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原作:プリンセッション・オーケストラ
種別:夢小説
時間軸:大体7話前頃
文字数:4506文字
ドラン×夢主
※本編26話まで視聴した状態で書きました。
 今はここにいない貴方へ。
 私はこれからも貴方のための歌を遺します。
 この思いが、吹き抜ける風のように一瞬のものであったとしても。
 何度も何度も思い返すでしょう。

 ♣♣♣

 歌うことが好き。とりわけ、ラブソングが。
 歌う時は周りのことが見えなくなるくらい歌の世界に夢中になれる。恋愛のことを考える時はドキドキしてワクワクする。誰かの色んな恋する気持ちを歌詞にして、思いついたメロディーを五線譜に書き起こして。できあがった歌を歌うだけでも十分楽しいけれど、みんなに見てもらえるともっと嬉しい。女の子の楽園・アリスピアで活動するようになってから早数年。地道な努力は報われ、小さい箱ながら屋内ステージでも活動できるようになってきた。私のラブソングが、誰かの力となって背中を押すような優しい風になれたらっていう夢があるの。
 けれど私には今、ちっぽけででっかい悩みがある。
 人生で一度も恋をしたことがないのだ。
 これまでは私自身の恋に恋する気持ちや、少女漫画やテレビドラマを見て想像して歌を書いてきた。それで充分楽しかったし満足してきた。しかし最近、アリスピアチャンネルに匿名のメッセージが届いてから困っている。そのメッセージには淡々とこう書かれていた。
『あなたの歌声は好ましいです。でも歌詞に中身がないというか、歌っている時も気持ちがこめられていない感じがします。失礼を承知で申し上げますが、本当に恋をしたことがありますか?』
 図星だった。私が今まで心の隅に感じていた不安が見事に指摘されてしまっていた。私の歌は、恋する女の子に憧れるだけのおままごとだった。
 もちろん趣味でやっているだけの活動なんだから自分の好きにやればいいとも思う。それでも、好きだからこそもっと上手くなりたい、もっともっと上へ行きたいと思うのは当然のことだろう。一生懸命考えた歌詞、恋に恋する気持ちは嘘じゃない。でも本物でもないかもしれない。私が恋する女の子に寄り添いたいとずっと思っていたのに、それは独りよがりだったということだ。
 それでもここで活動をやめるわけがない。私は歌うのも恋愛というテーマも好きなの。これは絶対に譲れない。それに応援のメッセージをくれる女の子たちだっているのだから。いずれ向き合わなければならない問題だったのよ。
 これを解決するためには私自身が恋をするしかない。何が何でも近日中に恋をしてみせたいの!
 ……そう一念発起したはいいものの、一番肝心の相手がいなかった。今までより注意深く学校の男の子たちを眺めてみたけれど何も感じない。私だって誰でもいいわけじゃないし、逆も然りでしょう。生半可な気持ちで恋はできない。嗚呼、これを機に運命の人と巡り逢えるかも、なんて夢見ていたのは甘すぎたわ。
「はぁ……。風と一緒に、恋が運ばれてきたらいいのに」
 アリスピアへ来て溜息をつく。アリスピアに男の人はいないのだから、ここで恋ができるわけない。つい来てしまう癖みたいなものだった。
 せっかくだけどここに居ても仕方ないし帰ろうかなと思ったところで、良い香りがしてきた。ケーキの匂いだ。
(……考え事する時には甘いものが良いって言うし、気分転換にもなるかも)
 誰に対してかわからない言い訳をして、私は香りの源流へと向かっていった。

 ♣♣♣

「はい、どうぞー! 召し上がれ!」
「ありがとうございます」
 香りの正体は、人気のクッキングアイドル・佐藤かえでちゃんのスイーツワゴンだった。私は嬉々としてパフェを受け取ったが、近くのベンチは満席だった。少し移動することにしたものの、休日の午後はどこも女の子でいっぱいなためなかなか良い場所が見つからなかった。
 パフェに乗ったアイスが溶けてきちゃって焦りながら歩いていると、いつの間にか人気のない花園へ迷い込んでしまった。生け垣に囲まれたそこは閉じられた場所という感じで、アリスピアではあまり見かけない花の生った樹がたくさんある。香りがむんと鼻に届いた。
「こんなところがあったなんて……」
 純白のガゼボを見つけて腰を下ろす。パフェを食べようとしたが、どうしてもこの空間へのワクワク感から歌いたくなってしまった。パフェを食べて紛らわしていたけれど、我慢する必要はない!と思い至って立ち上がり、丁度先日発表した新曲を思いのままに歌う。それは、誰にも言えないちょっぴり背伸びした秘密の恋の歌。メロディーは重いけれど歌詞は反対にシンプルで軽やか。こんな恋に憧れちゃうっていう妄想の一つを形にしたもの。今の私にとって現実味の無いラブソングにはやや抵抗もあったが、歌うことは止められなかった。ラブソングと同じくらい、歌うことそれ自体が好きなんだから。
 サビに入って昂ってきた時。不意に、強い突風が吹いた。思わず顔を覆う。
「きゃっ──」
 ……最初に届いたのは香り。花々とは種類の違う、温かくて爽やかな甘い香り。
 次に、気配。歌っていて気づかなかったのだろうか。誰かが、近くにいる。
 更に、声。それは己の耳を疑うものだった。
「──お嬢ちゃん、運が悪かったなァ」
 男の人の声だ。低く骨太。いや、アリスピアかもしれない。
 そうして顔を上げたところで、いよいよ夢でも見ているのかもしれないと思った。
「ほぉう……。近づけば近づくほどミューチカラが強く感じられる。好いねぇ」
 男の人だった。アリスピアにいるはずのない、見たことのない。それも目つきは良くなくて屈強で雄々しい。
 どんどん近づいてくるその人。瑠璃色の瞳に、がっちりと囚われた。
「……っ」
 いけない、ここにいては。急いで体を奮い起こし来た道へ走り出す。
 心拍数がドンドン上昇していた。それは石を投げ込まれた水面のような突然さで、流星が走ったみたいな速さで、胸を焦がす熱情じみたもの。何かに心臓を掴まれている! もしかしたら金縛りみたいなものに遭っていたのかもしれない。ただの恐怖だったのかもしれない。走っていたからというだけかもしれない。私は彼の存在を意識から逃すことに精一杯だったから今となってはわからない。
「おっと、逃げられちまったら……捕まえるしかないだろぉ?」
 脳に直接響いてくる声。間延びしたそれは残響になってこびりついた。
 いつの間にか目の前に立ちはだかってこられてしまい、対応できずにぶつかってしまう。後ろに倒れかけた私の体は、今度は背後へ瞬間移動したその人によって支えられた。肩に手が添えられる。優しい手つきだけど強い力で。
「捕まえた」
「あ……」
 わざわざ耳元で囁かれて肌が粟立つ。脳のキャパオーバーで流れ出した涙が顔を伝うことで、顔が熱で昂ぶっていることを自覚させられた。
「可哀想なお嬢ちゃんだ。抵抗しなければ、優しくもてなしたのになァ。……まっ、少しくらい手のかかる方が俺好みだがな」
 空の色が変わる。私は言われていることの半分もわからない中で必死にこの知らない気持ちの名前を探す。
 パチンと指が鳴らされると、辺り一面に怪物が出現した。小型で数も多くはないが、為す術はなく。私の体はすっかりその人の影に覆われてしまっていた。それでも背中を預けることはなく水中で藻掻くように救いを求めるが、無情にも今度は大きな手で喉を撫でられた。それで喜ぶのは猫くらいだろう……。もう限界で力が抜けていく。同時に、怪物によって私の意識も吸い取られ、私の体は抜け殻になった。

 ♣♣♣

 空っぽだ。
 何か大切なものを失ったみたいな。
 虚ろな瞳のまま意識を少しだけ浮上させると、何だかよくわからない光景が繰り広げられていたみたいだった。
 プリンセスのような女の子たちが闘っている。大きな怪物と、あと男の人と。
 何も感じない。心は動かない。目の前の情報がただ理解しがたくて、意識をまた手放した。

 ♣♣♣

 目覚めると、ガゼボの天井。いつの間にか寝ていたのかしら。あまりすっきりしない寝起き。
「よかった。気がついたんだね」
 声が聞こえて体を起こすと、見知らぬプリンセスのような女の子3人組とアリスピアンがいた。
 聞けば、彼女たちは正しくプリンセスと呼ばれる存在で、私が怪物に襲われていたところを助けてくれていたらしい。
「どこか体に異常はないかしら?」
 赤のプリンセスに気遣われる。みなさん私を助けて介抱までしてくれたうえに心配まで。
 怪物に襲われたということだけれど、先ほどから胸につっかえみたいなものがあるのはそのせいなのだろうか。
「体は、大丈夫なんですけれど……。何か、大切なものを忘れてしまったみたいな、なんかそんな気分で……」
「えっ?」
 驚いたプリンセスたちとアリスピアンの声が重なる。
「ちょっとそれヤバいんじゃないすか!? ミューチカラが戻り切ってないとか!?」
「こんなことは初めてだよ。ミューチカラはちゃんと戻っている。なのにどうして……」
 アリスピアンが診察するように耳を振り下げながら周りをうろついた。どうやら私の持つ違和感は尋常でないらしい。ミューチカラ、というのは何だろうか。
「すみません、もしかしなくても気のせいかも」
「ううん、大事なことだから。ねぇ、今どんな気持ちか具体的に教えてくれる?」
 水色のプリンセスに真剣な瞳で尋ねられると、上手く言葉にできないながらも説明する。
「えっと、今にも歌いだしたい気持ちがあるのに、何について歌いたいのかがわからない、みたいな」
「……そういえば貴方は、今勢いをつけてきているラブソングのシンガー、だったわよね? だとしたら、恋について歌いたいんじゃないのかしら」
 なんとこの赤のプリンセスは私のことを知ってくれていたようだ。ますます心配させまいと、明るく振舞ってみせる。
「……思いついていたメロディーを衝撃で忘れちゃっただけかもしれません」
「それならいいんですけど……」
 黄色のプリンセスは眉を下げて私のことを取り分け心配してくれているようだった。曖昧な発言をしてしまい申し訳なく思う。
「僕の方でも調査してみるよ。何か違和感が残るようだったらいつでも相談してね!」
 ナビーユと名乗ったアリスピアンに笑顔を向けられる。不思議と安心できた私は、プリンセスたちとナビーユに改めてお礼を言った。彼女たちが去った後、落ち着かない私はぐるぐるガゼボの周りを歩いた。どんなメロディーを思い浮かべていたんだろう。恋がしたい!っていう悩みに打ち勝つくらい、良いメロディだったのだろうか。
 ガゼボに置いてあるパフェのカップが目に映る。そもそも襲われた時の記憶が混濁しているの。ショックからだろうが……パフェを食べて、歌いたくなって、そしたらいつの間にか怪物が現れたはず。
 その時、冷たい夕方の風が吹いた。
「……あれ」
 花々の匂いに混じって、別の甘い香りがした気がする。プリンセスたちのものだろうか。いいえ、彼女たちの近くにいても感じなかったもの。
 体が固まり混乱する。なんだろう、これは、何の香り? 一瞬で消えてしまったのに鼻腔を独占するもの。私の体を突き動かすような、魂を震わせるものの正体。
 忘れていたのはこれだったのだろうか? 今なら、歌える気がする。心からの恋の歌が。自分でも変な話だと思うけれど……。
 ──なんということかしら。私はこの甘い香りに恋してしまったみたい。

あとがき
初めての続き物🎼ドランさんとのこういう恋が見たいな……っていう方向性が決まったので書いてみました♡
これのために自分用に1話から23話までの発言録取ったけど、なかなか掴めない人だと感じました……。喋り方は間延びぎみで、言葉は飄々としているけど彼の論理が明確にあって、よく頭がまわる。見返すうちに恋愛する隙がないなと思ってしまったけれど、私は彼と恋がしたいので頑張ります。ガイドラインは順守してまいります。何度も推敲して頑張ったため★★★★★

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